TPP後の日本の自動車業界

2015年10月6日 公開 自動車業界トピックス 
長らく交渉が続いていたTPP=環太平洋パートナーシップ協定について、参加国の閣僚会合で大筋合意したとのニュースが流れました。   TPPというと「国内の農業が壊滅する!」といったセンセーショナルな見出しが躍りがちですが、ここは当社らしく自動車分野について少し見てみることにします。   合意内容の概要はこちらのサイトでご確認いただけます。   『TPP合意内容 自動車の原産地規則の割合55%』   大筋合意といっても、詳細決定にはこれから気の遠くなるような各国の調整が必要であり、さらに参加国の議会が承認しなければ発効しません。なので今後も実態は大きく変わる可能性があることを頭の片隅に置いておくことにします。     さて、自動車の貿易と聞くと、私のような40代以上の方は日米貿易摩擦の歴史を思い出さずにはいられません。それだけ完成車の輸出入に目が行きがちなのですが、今回の大筋合意のポイントは完成車よりも部品にあるように見えます。   もちろん、カナダやベトナムへの完成車輸出にかかる関税が5年から10年で撤廃されるという項目もあります。しかし最大市場のアメリカでは今後25年も(徐々に減りはしますが)関税が残ることになりました。   しかし、ご存じのように今や車は現地もしくは現地近くで生産する体制が広く定着しています。   北米であれば北米自由貿易協定の恩恵をうけて、メキシコやカナダが自動車生産地としての地位を築いています。   こうした北米の組み立て工場に日本から多くの自動車部品が輸出されており、これまでは2.5%の関税が掛けられていました。   一方、エンジンなど北米の部品メーカーと競合しやすいパーツを除き、金額ベースにして約8割の品目で”即時”関税が撤廃されます。これは現地生産工場を持つトヨタやホンダにはただちに追い風となるでしょう。   また、ようやくメキシコに生産拠点を設けたマツダにとってもグッドニュースですが、さらなる生産拡大が求められる事態となった場合、北米のトヨタの工場にマツダ車の生産を委託する、なんてニュースも今後飛び込んでくるかもしれません。   (ちなみにメキシコは欧州とも自由貿易協定を結んでおり、メキシコ経由で欧州に完成車を輸出すると関税がかからないメリットも)     もうひとつ注目したいのが、「自動車の原産地規則」と呼ばれるものです。   一般の人にはなじみの薄い言葉ですが、これは「完成車の元となった部品がいったいどこの国で作られたのか、その割合をきちんと見ましょう」というものです。   自動車というのはすそ野が広い産業であり、部品を生産する中小企業をきちんと育てたい、という思惑が各国にはあります。   そこで、TPP参加国以外の国で生産された部品を沢山作っている車には、従来通り関税をかけますよ、というルールが今回も取り上げられています。   例えば先に挙げたメキシコやカナダでは、すでに北米自由貿易圏を築いている域内で生産された部品の利用割合が70%を超えており、この数値を下げて現在の優位を低下させたくないと考えていました。   一方、韓国やタイなどTPPに参加していない国で生産されている部品を多く使用している日本としては、この割合を現在の40%に近い数字にして現在の生産体制のままTPP圏内への完成車輸出を増やしたいと考えていました。   結局55%という両社の間をとった数値で合意しましたが、日本にとっては今後、部品生産国を国内やTPP参加国に変えていく努力が必要となってきます。   自分達の部品調達先をどうするのか。TPP圏外からの部品調達が多い自動車メーカーが、TPP圏内で部品を生産している部品メーカーに調達先を変更する動きが出てくるかもしれません。   このように、TPP大筋合意は日本の自動車産業にとっては良い影響のものが多く見られますが、その恩恵を十分に受ける為の変化は決して小さくないかもしれない。今回の合意内容を見ての私の感想です。  

Koji Yamanaka